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社会福祉学科
- 2025.12.05
- 【社会福祉学科】研究紹介_田中先生 12/5 NEW!
中国の高齢学研究所と関連研究機関主催講演会と中日合作の学術書出版について
5月、中国・国立⻄南交通⼤学 国际⽼龄科学研究院(NIIA)と一般社団法人 国際シルバー経済文化促進会が主宰する日中専門家シンポジウムに招待された(2025年5月10日:於・神戸芦屋の蘇州園)。私は日本側の研究者の一人として「高齢社会“人財”育成のAsian Standard 開発」というテーマで講演し、本学の健康福祉介護養成教育について話した。同シンポジウムの詳細は紙幅の関係で別の発表機会に期し、本稿では、この時、NIIAの新規出版物としてお披露目された中日合作の学術書の意義について紹介したい。
同書では、「少子高齢化ではアジアの先頭を行く日本」と「巨大な人口規模ゆえに高齢者人口の増加が課題となっている中国」がこの課題にどう向き合ったらよいか、研究者・教育者・実践者の総合的視点から論じられている。書名は『福利制度視野下的少子高齢化应对-日本实践与中国实践(少子高齢化に対して日本と中国はどう向かうのか)』(中国社会科学出版社、2025年4月出版)である。出来上がるまで5年の歳月を要したが、中日の研究者、翻訳者の緊密な連携の元、ようやくこの春、出版されたものである。
中国側は、表紙を「桜のイラスト」で飾り、日本の執筆陣に感謝の念を示してくださった。本書の編者として、NIIAから名誉教授の称号を受けた川池智子氏が関わっている。川池氏は佐賀大学で博士号を取得され、その時、主査を務めた私は本書に執筆した他、出版についても種々助言させていただいた。本学の卒業生である倉田康路氏(西南学院大学教授)、滝口真氏(大分大学教授)も執筆者陣に名を連ねている。
本書が中国の一流学術出版社において出版されたのは、本書の企画と収録された原稿が中国の研究者・学生等にとって極めて価値が高いと捉えられたゆえである。というのも中国には日本の社会保障、介護保険制度に関する書は翻訳出版されているが、それらの実践について紹介されたものはほとんどない。さらに本書には、日本の介護福祉だけでなく、社会福祉士、精神保健福祉士の実践例、福祉教育の全容、介護事業、民間福祉事業の実践、さらに日本の福祉制度発展の歴史についても収録されている。つまり介護・福祉の発展の経緯と福祉全体の中での位置づけ、縦軸と横軸が抑えられているという学術的意義が評価されたのである。
日本人40名の原稿に続いて中国側の動向も収められている。 中国が高齢者制度の充実とシルバー経済の振興を目指している今日、福祉・介護のアジアモデルの原型が日本にあるという中国研究者の視座に基づき、NIIAに位置付けられたことを、日本側の研究者として大変誇らしく思う。さらに同書の編纂過程で、中日研究者が相互に学び合う貴重な機会を得た。同書の出版を機縁に、日中福祉研究のさらなる交流の契機として次のシンポジウム企画も進められている。
最後に、本書が留学生のみならず、日本の福祉研究者、学生たちにも読んでいただくことを切に願う。中国語であるが、今は紙ベースの本を翻訳するツールもある。漢字を用いた文章を、かの国の文化を思い浮かべながら読み解くのもまた乙なことではなかろうか。